『お、お坊ちゃま!? お、お待ちくださいっ、今、門を開きます!』

 どうやら実家の門前にて、家政婦とインターフォン越しの会話だったらしい。

 少しして自動なのだろう、淀みなく開いてゆく門の(きし)みが聞こえ、凪徒は屋敷の入口を目指したようだった。

「ついに桜家に到着か……しかし“お坊ちゃま”とはな」

 暮と秀成はつい唾を呑み込み、スピーカーを凝視しながら苦笑した。

 長いこといつもの足音が聞こえ、一体どれほどの距離があるのかとそちらにも呆れてしまう。

『お帰りなさいませ、凪徒お坊ちゃま! まぁっ、ご立派になられて!』

『しばらくだったな……元気にしてたか?』

 ──立派って……ブランコで鍛えられたからか?

 暮は音声のみの二人を想像して首をひねる。その時──

「暮さん、秀成君、夕食出来ましたって……よ……? あれ? 何してるんですか?」

 こちらの『二人』の猫背に声をかけたのは、食事のために呼びにやって来たモモだった──。