「秀成! お前これからしばらく凪徒の会話を聞いていろ。あいつが実家に戻れば必ず父親と話をする筈だ。そこからあいつを取り戻す(すべ)を見つけ出す! 何かヒントになるような話が聞けたら逐一(ちくいち)報告してくれ」

「い……いいんですか~?」

 さすがの秀成も少々ビビリ出した。

 凪徒が戻った後に真相が知れたら、時々秀成も体験しているいつもの説教どころでは済まない筈だ。

「全部おれの仕業(しわざ)ってことにしてやるから心配すんな! そうだな……報酬は自動車教習所の費用三割負担でどうだ? 早くリンとドライブデートしたいだろ?」

「は、はいっ! その計画乗りました!!」

 即決で元気な返事をした秀成は、満面の笑みで(うなず)く暮とハイタッチをした。

 ──しっかし……春に起きたモモの誘拐事件に続いて、凪徒の失踪とは……まったくいつまで経っても落ち着かねぇ空中ブランコだな……。

 目では笑っていてもつい引きつってしまう自分の口元へ、暮は再び飯をかき込んだ。

 同様に喜び勇んで食事を始めた秀成も、しかしふと途中で箸を置き、

「でも……そうなると、モモの恋って叶わないんですね……」

「……ああ……うん……」

 二人の胸には切ない想いが流れ落ち、そして明日から始まる凪徒のいない公演に、不安を払いのけられずにいた──。