「あ、暮さん? あー! モモ!?」

 モモの背後から走り寄る声が突然二人の名を呼んだ──眼鏡を押さえて近付く秀成。

「リンが心配してたよ。昨日の夜、約束したのに来なかったって。ずっとどこ行ってたの?」

「え? モモ、もしかして……凪徒と?」

 暮は驚く秀成と消沈したモモの姿を交互に見下ろしたが、

「いえ……あたしは……。昨夜から今まで……杏奈さんに、拉致されてました……」

「ああっ!? あの姉ちゃんに?」

 突拍子もない失踪の理由に、さすがに大声を上げてしまった。

「暮さんは凪徒さんを探してるんですか? 凪徒さんなら、何故だか昨夜からずっと駅の周りをウロウロしてますよ」

「え!?」

 ──そうだ……こいつ、凪徒の財布に発信器つけてやがった!!

「えっと……今もまだ駅の……多分東京方面行きホームにいます」

 と、秀成はスマホ画面を眺めて淡々と言ってくれた。

「あ、あたし……行きます!!」

 咄嗟(とっさ)に必死な表情を上げ宣言するモモ。

 と同時にすぐさま背を向けて駆け出した。

 唖然とするほどのスピードに、二人は一瞬声も出なかった。

 ──先輩……どうか、行かないで!!

 モモは熱風と化す空気を斬り裂いて、駅に向かって疾走した──。