「モモはうちのサーカスには『天才』過ぎた……練習もせずにあれだけ出来てしまうとなると、今まで努力してきた団員達の立場がない。それに女性ファンの多い凪徒に、若い女性をパートナーとして付けることにも抵抗があった。夫人の場合は凪徒よりも先にいたメンバーだったしの、五つも年上なのも幸いして、特に問題はなかったが……」

「はい……。でもそうなると凪徒は、自分の妹と確信したからこそ選んだ、ということですか?」

 暮はテーブルに手を突き、ずいっと上目遣いの顔を団長に寄せたが、

「いや、その可能性は薄いだろうの」

 意外なことに団長のにこやかな表情は、変わらぬままそれを否定した。

「あいつは純粋にモモの舞に魅了され、その才能にブランコ乗りとしての可能性を見出したんだろうよ。モモが初めて現れたのはまだ十四の時だ。凪徒は一度だけ会ったモモの母親かもしれぬ女性の面影には気付かなかった。が、モモが成長するにつれて『それ』が見えてきた……あいつが悩み、戸惑い出したのは最近のことだ」

「はぁ……」

 暮は大きく(うなず)くように息を吐き、背もたれに体勢を戻した。