そう思ったボクが、真っ先にノゾミさんに尋ねたのは……。

「……ミライさんは、何処ですか?」

「え?」

ミヅクさんがどんな人物なのか、とか。
何故ミライさんに忠誠心を抱いているのか、とか。
そんな事は、どうでも良かった。

「下剋上、止めなきゃ……」

今の状態で、ツバサが下剋上なんてしたらどうなってしまうか、と言う想いだった。
ただただ、心配で。不安で、仕方なかった。

騒つく胸を。
不安な心を抑える事が出来ない。

「何処に居るか、までは分からないけど、兄がミヅクを呼んだ以上、隠れ家(この辺り)には戻ってきている筈ですわ。
……でもね、ジャナフ君。兄はーー……」

「っ……!!」

「ジャナフ君!待って……!」

きっとボクにとって大切な人を護る方法は、その人を危険から遠ざける事だったーー。

昔、一緒に居ながらも護ってあげる事が出来なかった……。閉じ込められた塔の中から逃がしてあげる事が出来なかった母親に、そう、してやりたかったように……、……。

居ても立っても居られなくなったボクは、ノゾミさんが呼び止める言葉を無視して駆け出すと弓道場を後にした。
宛なんてなかったけど、隠れ家内を走って、走って、姿も分からないミライさんを捜す。


……
…………すると。
さっき弓道場でミヅクさんに会った際に、フワッと香った薬品のような匂いを感じた。
一度走って通り過ぎた廊下を戻って、その脇の通路に視線を向けると、そこには二つの人影。

ミヅクさん、と……。最高責任者(マスター)によく似た顔立ちと雰囲気を持つ、緑色のチャイナ服に身を包む明るい茶髪の男性。

「ーー……っ、ミライさん!!」

深く考える前に、ボクはその名前を呼んでいた。
初対面のボクに、この人が100%ミライさんだと言う確証はなかった。

けど、それは一瞬で確信に変わる。

名前を呼ばれたその人は、ボクの方に身体を向けて、目が合うと穏やかに微笑った。
その様子にゾクリッとして、ノゾミさんを振り切って弓道場を飛び出した筈だったボクの勢いは止まる。