ランの瞳を通して。
触れられた肌を通して……。彼女の感情が、俺に流れ込むように伝わってきた。

こんなの、あんまりだーー……。

ランの隠されていた本心、本音……。それを今、この場で、初めて知った俺は心の中でそう嘆いた。

幼い頃から一緒に居た筈なのに。
一緒にたくさんの時間を重ねてきた筈なのに。
俺は何一つ、気付く事が出来なかった。
幼馴染み、親戚、親友……。その顔の裏に隠されていた、一途で健気な女の子の顔。

『ツバサ、大好きーー』

……
…………今、この時ばかりは、

誰がランにspellbind(スペルバインド)をかけ、操っているのか?

なんて、どうでも良かった。
それよりも、何よりも……許せないのは、俺。自分自身だったからだ。
天使の一族の血縁であるランが能力(ちから)に堕ちてしまったのは、俺への気持ちを抑え込むあまりに出来た心の溝のせいに違いなかった。

「っ、……ラ、ン」

ーー……ごめん。

謝りたい。
けど、謝るよりも他に、俺にはランにしてやらなくちゃいけない事があった。

天使の能力(ちから)によってかかった暗示を解く為には、いくつか方法がある。
一つ目は、暗示をかけた本人が解く。
二つ目は、暗示をかけた本人が死ぬ。
そして三つ目は、暗示をかけた者と同等、もしくはそれ以上の能力(ちから)を持つ人物が解く。

つまり、俺ならば……ランにかかっているspellbind(スペルバインド)を解除する事が出来るんだ。

……けど。それは同時に、ランの命の灯を俺が消す、と言う事になる。

今ランは、spellbind(スペルバインド)能力(ちから)によって、限界の肉体にかろうじて魂がくっ付いているだけの状態。
だからまだ、動いて、喋って、微笑む事が出来ている。
けれど、spellbind(スペルバインド)を解けば……。それはもう、本当に最期。

ランが、この世からいなくなってしまうーー……。

その現実を、意味していた。