瞳が、逸らせない。
まばたきも、出来ない。
そんな状態の中、お婆さんは言葉を続ける。

「あるでしょう?欲しいもの」

「……」

「欲しくて欲しくて、仕方のないもの」

「っ、……」

「……可哀想に。ずっと前から、誰よりも以前(まえ)から1番に望んでいたのに、貴女は選ばれなかったのね?」

その、お婆さんの言葉に導かれるように……。私は幼少期の事を思い出した。
物心ついた時から、私はツバサが好きだった。結婚出来ない事は知っていたから、私はツバサの傍に居られるだけで満足だった。

……けど。
レノアが現れてから、私の心はーー……。

きっと、見ないようにしていた私の心には小さなヒビが入っていた。

「ーー何も我慢する必要はないのよ」

そう、言われた瞬間。
スイッチが押されたかのように、心が、パンッて、小さく音を立てて弾けた気がした。

そしたら……。
もう、我慢する必要なんて、ないって……思った。

「幸せになるのよ?
貴女の彼を、取り戻すの……。
やり方は、分かるわよね?」

お婆さんの両手が、私の両頬に添えられ、顔を包み込むようにして言われた。
私は、コクリッと、静かに頷いて微笑む。

「……さぁ、お行きなさい。
何も我慢する必要はない。貴女は幸せになるべきよ?」

ーー……そうよ。我慢する、必要ない。
私の方が生まれた時からツバサと一緒に居て、一緒に育って、長い時間傍に居た。
レノアよりも長くツバサを見て、長く強く想ってきたの。

私は、ツバサが……欲しいーー。

お婆さんの手が自分から離れたと同時に、私はソファーから立ち上がるとゆっくりと歩き出した。

ああ、明日が楽しみだなぁ……。

そう思う気持ちは、確実に違うものへと変わっていた。
けれど、心をすっかり闇に支配された私は、もう止まる事が出来なくなってしまっていた。

……
…………。