俺は男だし末っ子だし、未婚だ。妊婦にとって何が必要で、どうしたらいいのかは分からないが、とりあえず、身体を冷やすのは良くない、と言う知識だけが先行していた。
後から考えてみれば、そんな事をするより姉を部屋の中に戻した方が良かったのに……。それくらい、なんか必死だった。

「っ、たく。他人の怪我治したり心配するより、姉貴はもう少し自分の事を……、……。って、姉貴。何笑ってんだよっ?」

俺の言動に身体を小刻みに震わせながらクスクス笑う姉。その様子を見て少しムッとすると、弁解するように姉貴が言った。

「ふふっ、ごめんごめん!いや〜まさかツバサに、こんな風に優しくしてくれると思ってなかったからさ」

「?……俺、優しくなかったか?」

姉のその言葉に自分に優しいイメージはなかったのか?と、一瞬ガーン!と軽くショックを受ける。
確かに、俺は人を避けたり、心を開けなかったり、素っ気ない部分が多々あったから仕方ない、とも思う。
けど、少なくとも身内にはそこまで距離を作っていたつもりはないし、姉貴の事も大切な家族だと思っている。
それなのに、伝わっていなかったのだろうか?と、過去の自分を思い返していると、首を横に振った姉貴が再び弁解を始めた。

「ごめんごめん、違う。そう言う意味じゃないの!
なんて言うかな……。優しさの種類が変わったな〜って、思ったの」

「?……優しさの、種類?」

それがどう言う意味なのか分からない俺に、姉貴は言葉を続ける。

「ツバサは優しいよ、元々。羨ましいくらいに、心が綺麗。
でも今は、そこに更に大人の男性としての優しさが出てきたように感じたの」

「……大人の、男性としての?」

「そう。以前(まえ)より良い男になったね、って事よ!」

そう言った姉が、笑顔で俺を見上げてくれた。