嬉しくて嬉しくて、ついつい笑顔を抑えられないでいると、「フッ」と微笑ったミライさんが言った。

「別に。お前にお礼言われる事じゃないでしょ?」

「っ、そ、そうですけど……。
でも、嬉しくて!本当に、本当に嬉しいんです……!!」

そう、ただ、嬉しかった。
何も知らない俺は、嬉しさしかなくて……。ミライさんと姉貴、二人の複雑な想いに気付けなかった。

「姉貴の事、よろしくお願いします!」

おめでたい、ただの馬鹿な弟だった。

俺がその事に気付けるのは、もっと後ーー……。

「……。
そんなに、喜んでくれるの?」

俺の笑顔を見て、ミライさんはそう尋ねた。
その言葉に、「当たり前ですよ」って、返そうと思った。
でも。俺がそう言う前に、フワッと自分の身体を包み込んだ温もりに、言葉と、思考が、一瞬止まる。

ーー……え?

ミライさんが、俺を抱き締めて言った。

「そんなに喜んでくれるなら……。この決断も間違いじゃなかった、って思えるよ」

後にも、先にも。
この時のミライさんの声は、俺の知る中で1番優しかった気がした。俺をギュッと抱き締めて、ミライさんが囁くように言ったこの言葉は、きっと数少ない本音の言葉だった。

「っ、……ミ、ミライさん?」

「ん?」

「は、恥ずかしいですっ……」

それなのに、俺はそんな言葉しか返せなかった。

「ははっ、いいでしょ?
……僕は、これからツバサのお兄ちゃんになるんだし。家族、でしょ?」

優しい問い掛けが、廊下に響く事なく消える。

お兄ちゃん。
家族。
その言葉に込められた想いの深さも知らずに、この時俺は、「はい」って、小さく答える事しか出来なかったんだ。

……
…………。