しかし。
鏡に映る自分の右耳に着けられた耳飾りに目を射られると、そんな自分の想いをノゾミに伝えていいものか?と躊躇した。
本妻の他に側室を持つのが普通である国に生まれた私とは違い、彼女にとって一夫多妻という制度は受け入れ難いものであろう。
本妻のみが夫と揃いで身に付ける事が出来る耳飾りーー。
そんな物は私にとっては本当にただの飾りで、大切なのは相手を想う気持ちが本物であるか否かだ。
が、それはあくまで男である私の意見。
女性にとっては、違うものなのかも知れぬ。
現に、以前私の耳飾りを見つめるノゾミの瞳は何処か悲しげに見えた。
何か、この想いを形に出来る物はないかーー?
そんな時に、指輪の存在を思い出した。
『指輪か?
これは、愛の証だ!今の俺にとっては、白金バッジよりも大切なんだ!!』
夢の配達人を引退されたヴァロン殿が奥方様と揃いで左手の薬指にはめていた、指輪。この地方で想いを寄せた者同士が、愛を誓い合い、共に身に付ける品。
これしかない、と思い準備した。
ここは私の祖国ではない。彼女と出逢えたこの国で、彼女の国の仕来りで想いを伝えよう。
そして今日、この日を迎えたーー。
普段身に付けている民族衣装ではない洋服とやらは着慣れなくて最初は落ち着かなかったが、嬉しそうなノゾミの様子を見たら苦ではなくなっていった。
手を繋ぎ、ただ一緒に街を歩く事でこんなに心が弾むとは思わなかった。
彼女と一緒に見る景色、過ごす時間は、いつだって私に新しい感情を教えてくれるーー。
今度こそ、一緒に笑えると思った。
いや、一緒に微笑み合いたいと思った。
気持ちが最高潮に高まった私は、懐にしまっていた指輪の入った箱を取り出すと、蓋を開けて跪き、彼女に気持ちを伝えた。
「ノゾミ、私と共に蓮華国へ来てくれ。私の傍に、ずっとずっと居てほしい」
驚いた様子のノゾミは目を見開いて、私を見つめながら立ち尽くしていた。
暫し見つめ合う、沈黙の時間ーー。
そんな私達を、春の暖かさを含んだ風がサァッと優しく吹き包んだ。



