「レノアーノ?寝てるの?
……レノアーノ?開けてもいい?」

返事のない様子に、ミネア様は何度かレノアに語り掛ける。
だか、レノアがそれに対して返事する事はなかった。

俺が「このままで大丈夫です」と声を掛けると、ミネア様は心配そうにこちらを見た。
でも、俺が微笑んで頷くと、ミネア様は扉の前から下がって、扉の前を譲ってくれた。
俺は扉の前に立つと、左手を扉に添えて目を閉じる。

レノアに、果たして気持ちが通じるかーー……。

余裕そうにミネア様には微笑んで見せたけど、本当の本当は、不安な気持ちでいっぱいだった。
俺は口下手で、父さんがたくさんの人を幸せにしてきたような夢の言葉は使えないから……。
不安な気持ちを消すように、深呼吸してから語り掛けようと思った。

でもその時、俺の右手を暖かい温もりが包み込んだんだ。
驚いて目を開けて右隣を見ると、そこに居たのは一緒にここへ来てくれたジャナフ。ジャナフが俺の手を握って、隣に立ってくれていた。

大丈夫。
一緒に居るよーー。

俺と目が合ったジャナフは、心の中でそう呟いて、微笑って、頷いてくれた。
そしたら不思議と心が軽くなって、俺も微笑っていた。

そうだ、一人じゃない。
レノア、俺達は一人じゃないんだ。

ジャナフのお陰で、俺はレノアに伝えるべき言葉がようやくハッキリした。
また父さんみたいに、とか思ってたけど……違う。俺は、俺の言葉で気持ちを伝えようと思った。

正面を向くと、扉のその奥に居るレノアに届くように、俺は言った。

「俺は、立ち止まったりしない」

今のレノアに、俺がランの気持ちを代弁して伝えてもきっと届かない。
だから俺は、俺の気持ちを、真っ直ぐに伝える。

「俺は、真っ直ぐに進む。
この下剋上を成功させて、全てのバッジを手にして、お前を護る。約束を果たす」

それが今の俺に出来る精一杯。

俺の気持ちは、何があっても変わらないーー。

その気持ちを伝えよう。