掌に乗せた白金バッジをもう一度見つめて、改めて手にした実感を噛み締める。

これで、また一歩ーー……。

そう思った直後、部屋の扉がパタンッと静かに閉まり、誰かが出て行くのが分かった。
俺はハッとして、

「本当にありがとうございました!
すいませんっ、お先に失礼します……!」

そう言って、ミヅクさんとミライさんに頭を下げ、少し離れた場所に居たノゾミさんにも頭を下げると、部屋を後にした。
そして、先に部屋を出て行ってしまった人物を追いかけると、その背中を見付けて叫ぶ。

「ジャナフ……!!」

俺が名前を呼ぶと、その背中はビクッと揺れて歩みを止めた。

けど、ジャナフは振り向いてくれない。
俺は駆け寄ると、そのままジャナフを背中から抱き締めた。

伝えたい言葉は、たった一つ。

「……ありがとう」

それだけだった。
ミヅクさんに毒入りの盃をすすめられた時、飲めない本当の理由に気付けたのはあの場にジャナフが居てくれたからだった。
まるで自分の事のように、俺以上に……。ジャナフが俺の事を想って、心配してくれたから、俺は間違った道に進む事がなかったんだ。

「聞こえたよ、ジャナフの心の声。左目を塞いでても、しっかり聞こえた」

ランを失って、自暴自棄になっていた俺。
けど、残された俺にまだ出来る事があるんだ、って……。何をするべきなのか、って。ジャナフが俺に、大切な事に気付かせてくれたんだ。

「ありがとな、ジャナフ!」

そう言ったら、抱き締めていたジャナフの身体が小刻みに震え出した。
そして、ジャナフが泣きながら言う。

「っ、ごめ……っ、ご……めんっ」

ごめんーー……?

「ごめん、ねっ……ツバサぁ……ッ」

ポタポタッと、床に落ちる涙。
何故ジャナフが泣くのか、俺には最初分からなかった。けど、…………。

「ボクが、あの日……熱、出さなきゃ……もしかしたら……」

「ーー……っ、違う!!ジャナフ!それは違うッ!!」

ジャナフの言葉に、ようやく彼の涙の理由に気付いた俺はハッとして叫んだ。