今日も、健人に会えるのか……嬉しい。
紗奈は毎朝そう思う。
なのに今日はおかしい。
『違う違う。あいつは嫌な奴だ』
頭の中に響いた声。
「な、何?……」
するとまた頭の中から声がして。
『お前、栗原健人が好きなのか?』
「だ、誰なのっ……」
『私はもう1人の楠木紗奈だ。」
「どういうこと?」
もう1人の私と言う奴によれば、紗奈の中に反対の人格の楠木紗奈が入っているらしい。
こんな事は現実に有り得ないが、実際に頭の中で声がする事がこれは現実だと物語っていた。
『私は、あんたの邪魔をする』
「どうして。」
『栗原健人が気に食わないから』
「どうして。」
そう聞き返したが、返事はなかった。
大事な質問を無視され、紗奈は不機嫌なまま学校に着いた。
すると靴箱に健人の姿があった。
「おはよう、紗奈。」
「おは……」
おはようと返そうとしたが声が出なくなり、
自分の体が勝手に動いた。
紗奈は健人を無視して教室へ向かった。
「紗奈?」
健人はそんな紗奈の様子を不思議そうに見ていた。
どうして、どうして?
一方紗奈は自分の体が思うようにならない事が不思議で仕方なかった。
すると頭の中で声が響いて。
『フフ、いいザマ』
「ちょ、あんた!なんて事するのよ!」
教室でいきなり大声をあげた紗奈に、周りの目が集まる。
『死にたい』
急にそんな事を言い始めるもう1人の紗奈。
「は?私はそんな事思ってなんて……」
無い、と言いきれなかった。
あれ?何で私、生きてるんだろ?
死にたい、死にたい。
勝手に頭がコントロールされる。
そして体も。
操作される体は、ベランダに行き3階から飛び降りようとしていた。
やだっ、嫌だ!
紗奈の本心が出たら、後ろから健人の声がした。
「紗奈!!」
そして健人に体を包まれる。
「紗奈?どうした、大丈夫か?」
「け、んと……私、おかしくて……」
でも体が健人の事を弾いて、私は1人学校を飛び出していた。
『後もうちょっとだったのに……』
悔しそうな声が聞こえる。
このままではダメだと思った。
また健人に迷惑をかけてしまうかもしれない。
今は、自分自身と向き合おう。しばらく1人になって、落ち着いたら健人に会いに行こう。
でも、体が思うように動かない。
そのまま体は道路に向かって。
『死にたい』
嫌、私はそんな事思っていない。
『死にたい』
もうやめて!
『死にたい』
そして、車が来た瞬間に、この体は道路に飛び出すつもりだとわかった。
嫌だ、やめて!!健人っ……
そう祈った時、もう体は車と衝突寸前。
轢かれる!
でも、体は痛くなくて。
すると、目の前には地獄の光景が広がっていた。
健人が、体から血を流して倒れていたのだ。
「けん、と?……え?健人、健人。」
名前を呼んでも、健人から声は帰ってこない。
嫌……私のせいだ。
ああ、あああ……
「イヤァァァァ!!」
紗奈は、声にならないような悲鳴をあげた。