「豊さん、おかえりなさい」
「明日海」

豊さんが振り返る。わずかに目を見開いたけれど、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。

「熱は」
「まだありますが、うつるようなものではないので、安心してください。メッセージ、返せなくてごめんなさい」
「そんなことはいい。寝ていろ。……いや、何か食べられそうなものはあるか」
彼の身体の向こうにはダイニングテーブルが見え、そこには様々な食品が並んでいた。

おかゆ、菓子パン、プリン、ヨーグルト、スポーツドリンク、乳酸菌ドリンク……。手当たり次第買ったといった様子だ。

「それ……私に買ってきてくださったんですか?」
「何を買ったらいいか見当がつかなかった。俺の亡くなった母は、調子の悪い時はプリンなんかを喜んで食べていたから……」

私はよろよろとダイニングテーブルに歩み寄る。テーブルの品々を眺め、それから豊さんを見上げた。

「ありがとうございます。すごく嬉しい」

正直に言えば、食欲はまだわかない。だけど、彼の気持ちがものすごく嬉しかった。私のために何かを食べさせようと選んで買ってきてくれたことがありがたい。

「熱が下がったら、いただきます。いいですか?」
「わかった。しまっておこう」

そう言って、豊さんはしゃきしゃきと動き回り、私への見舞の品を片付けた。経口補水液のペットボトルだけ私に手渡す。

「少しでいいから飲んでくれ」
「はい」