不安もあったけれど、私は未来の背を押す。

「ほら、未来。行ってごらん」

未来はびっくりといった顔で私を見ていたけれど、豊さんが未来の目線まで屈むとよちよちと歩みよった。
豊さんは未来の両脇に手を差し入れ抱き上げる。ぐんと高く持ち上げられ、未来はきゃきゃっと歓声をあげた。我が娘ながら単純だと思いつつ、泣きださなかったことにホッとした。

「未来、今日から俺がきみのパパだ」

それは優しいパパの雰囲気ではなかった。幼い子相手にも業務連絡のように冷たく響く声で語り掛ける豊さん。
未来は泣きださず豊さんをじいっと見ていた。抱き上げられたのが楽しかったのか、豊さんへの警戒心は一時的に薄らいでいるようだった。
豊さんは一瞬目を細め、それから未来を私の腕の中に返した。

「そこのファイルに婚姻届と養子縁組届が入っている。いつでもいい。目を通して記入しておいてくれ」

棚を指さされて見れば、クリアファイルに書類が入っている。まだ白紙の書面は、私が記入した後、彼も記入するのだろう。

「はい、わかりました」
「記入はしてもらうが、提出はこちらの都合で少し後になる。区役所には住所変更だけ先に提出しておくといい」
「……はい」

同居をしても入籍しないのはどうしてだろう。やはり、望の捜索をしているからだろうか。
望が現れれば、私はお役御免だ。そのときに離婚の面倒がなくていいという意味だろうか。