冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

事前に預かっていたキーで入室してみて、ため息が出た。
リビングは一面が窓、東京湾とお台場が一望できる。ベランダがあり、ガーデンテーブルとチェアのセットが設置されてあった。家具はひととおりそろっているけれど、豊さんの私物は見当たらない。彼は数日前に先にこの部屋に入居しているはずだ。

「すごいところに来ちゃったねえ」

未来は抱っこ紐から下ろされると、驚いたようにあたりをきょろきょろ見回していた。場所見知りをしているようで、しばらく私の足元から離れなかったけれど、やがてちょこちょこと歩き回り始めた。
そんな未来を捕まえオムツを替え、おやつを食べさせているうちに、引っ越し業者が荷物を持ってきてくれた。リビングに面した和室に入れてもらう。

業者が去っていくと、入れ違いに部屋に入ってきたのは豊さんだ。

「部屋はそこの和室でいいのか」
「は、はい。お布団で寝ているので」

豊さんは私と未来を一瞥し、それからダイニングテーブルにカードと封筒を置いた。

「クレジットカードと現金だ。当面、必要なものはそこから用立ててくれ」
「あの、私も貯蓄がありますので」
「きみは俺の妻だ」

豊さんが私を見た。怜悧な視線は、言葉とは裏腹だ。

「不自由をさせる気はない」

私と豊さんの間に流れる緊張感を察したのか、足元にいた未来が私のパンツのすそをきゅっとつかんだ。
すると、豊さんが視線を未来に向けた。

「未来、おいで」

意外な言葉に驚いてしまった。過去二度会ったときも、豊さんは未来の条件については話したけれど、未来本人に興味を示しているようには感じなかったから。