リビングのソファで作田くんと向かい合った。

「笛吹製粉の副社長が明日海さんと政略結婚ですか。笛吹さんに未来ちゃんの父親の名前は知られたくないんですね」

未来の父親について知っているのは藍だけ。作田くんにも話していない。私はもう一度頭を下げた。

「ごめんなさい。所謂、道ならぬ恋というか……そういう間柄で授かった子なの。豊さんにも無関係ではない人なので、どうしても言えないの」

嘘を重ねてしまうことに申し訳なさを覚えつつ私は作田くんに懇願する。

「未来の父親として名前を使ってしまって申し訳なく思っています。あなたに不利益が生じることはないと思うけれど、何かあったら相談して。私も父も絶対に作田くんを守るから」
「いいんですよ。奥村社長にも明日海さんにも、昔からよくしてもらってますし。ゆなの妊娠がわかって、繁忙期に結婚式をしたのに、奥村社長は嫌な顔ひとつせずに祝福してくれました。しかも、しっかり新婚旅行の休暇も取らせてくれて本当に嬉しかったです。名前を貸すくらいたいしたことじゃないですよ」
「でも、作田くんには望のこともずっと気にしてもらっているし」

私の言葉に、作田くんは「あいつはダチですから」と困ったように笑った。

「でも、俺もたいしたことはしてませんって。友人連中に聞いて回ったり、見かけたり連絡をもらったヤツがいたら、俺にまわしてって頼んでるくらいです」

作田くんは本当に頼れる人だ。望には過ぎた友人だと思う。