「未来は俺の子だ」

彼の声が雷のようにこだました。
待って、待ってください。そんなことありません。この子は私が産んだ私の娘。
あなたとは関係がないの。
必死に伝えようとするけれど、私の唇は空振りするばかり。声が出ない。さらに手足もうまく動かない。

彼が未来を抱き上げる。そのまま、私に背を向け歩いて行ってしまう。
待って、駄目。未来を連れていかないで。未来は私のすべてなの。
未来を返して!
お願い!



びくりと身体が震え、私は目覚めた。視界には自宅の天井。
夢だったのか。なんて悪夢だ。
汗びっしょりの身体を気持ち悪く感じながら、首をねじって横を見る。未来はすやすやと夢の中。私の授乳枕がお気に入りの未来は、いつもそれにしがみついて眠る。

ああ、怖い夢を見てしまった。おそらくは私の潜在的な恐怖が夢に現れているのだろう。
豊さんが未来を自分の子だと気づいたらどうなるか。想像しないわけじゃない。
笛吹家の人間なら、未来は暫定で後継者候補になるだろう。男の子が必ず跡を継ぐという時代でもない。それに伴い、未来は笛吹製粉のトップとして帝王学を学ばされることにもなりかねない。

それだけならいい。だけど、もし私と豊さんが離婚となった場合、未来の親権を豊さんが主張するのは間違いない。未来を失う可能性があるのだ。