豊さんを見つめ、言葉にする。今、決めなければならないだろう。
この人は、やはり弟を恨んでいるし、私を道具にしてもいいと思っている。

「ですが弟があなたの人生を変えたことを申し訳なく思う気持ちも変わっていません。あなたの提案に従います」

彼が頷く。あなたの思う通りにする。だから、こちらもひとつだけお願いをさせてほしい。

「図々しいと思います。でもどうか、未来だけは普通に育てたいんです。あなたの怒りにも、私たちの謝罪にも巻き込まないで大きくしてやりたい」
「じゃあ、どうする。この子を他所に養子にでも出すか? そうすれば、俺からは逃がしてられるぞ」

豊さんの冷徹な言葉に、必死に首を振る。

「この子と離れたくありません。どうか、あなたの傍にいますから、この子に厳しくは当たらないでほしいんです。この子の生活費や学費は私が工面しますから」

私の懇願に、豊さんがふーっと長いため息をついた。
顔をあげると、豊さんは少し呆れたような顔で、グラスのワインをぐいっと飲み干した。

「どう思われても仕方ないと思うが、今からする約束だけは信じてくれ。この子、未来に何ひとつ罪はない。未来が大人になるまで何不自由なく養育することを約束する」

豊さんは私をまっすぐに見て宣言した。

「きみに対しても、何かを求める気はない。戸籍上結婚し、同居するだけでいい。きみは未来の面倒を見て平穏に暮らせ。未来についてはいくらでも好きに金をかけてくれ。俺の個人的な八つ当たりにつき合わせるのは奥村明日海、きみだけだ」

この人の中には怒りがあるのだろう。だけど、子どもを巻き込むという選択肢は持っていない。まだ冷静だ。