「シングルマザーで傘下企業の娘です。私より有益な方はたくさんいらっしゃるでしょう」
「条件のいい婚約者は、きみの弟と駆け落ちしてしまったな」

私はぐっと詰まる。その通りだ。そして、この口ぶりから豊さんの内に望への怒りはまだあるのだと感じられた。

「それなら余計に、私と結婚するのは嫌でしょう。望の姉です。さらに連れ子もいます。あなたは嫌いな相手とその連れ子の面倒見るというのですか」

私の声が厳しかったせいか、未来は哺乳瓶を口から離し、きょとんと見上げてくる。また、驚かせてしまった。私は未来をあやしミルクの続きを飲ませる。
豊さんがふっと笑った。

「笛吹製粉の次期社長が、後継が失踪してしまった奥村フーズを救うため、そこの娘を連れ子もろとも面倒見るというのは慈悲深いエピソードだとは思わないか? 世間は、俺が婚約者と破局した理由も、奥村望の失踪との関連も知らない」
「そんなことのために……」
「あとは個人的な理由だ。俺はあのとき、むしゃくしゃした気分できみと関係を持った。その延長だよ」

彼の言っている意味がわからず、私は豊さんを見つめた。豊さんは端整な顔に嘲笑を浮かべていた。冷酷な表情だった。

「奥村望はどう思うだろうね。俺の婚約者を寝取って駆け落ちした結果、実姉が俺に囲われ慰みものになっているとしたら」

私は慄然とした。自然と未来を抱く手に力がこもる。