冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

どうにか抱っこ紐に入ってもらって、熱気あふれる構内を進んだ。夏の駅は暑いんだったなどと今更思い出す。

駅からほど近いホテルが豊さんとの待ち合わせ場所だった。
指定された最上階のレストランに向かうと、個室に案内された。子どもがいるし、込み入った話になるので助かる。

案内の人を断り、ドアの前で深呼吸をした。二年ぶりに会う豊さん。今は三十三歳になったはず。
どうして私と結婚などと言い出したのだろう。その真意を見定める。そして、私は絶対にぶれない。

「失礼します」

ドアを開けると、席についていた彼が顔をあげた。
豊さんだ。
何も変わっていない。ううん、あの頃よりもっと素敵になった。私の憧れだった人だ。

豊さんは立ち上がり、歩み寄ってくる。二メートルほど手前で止まり、未来を抱いた私を頭からつま先まで眺め渡した。それから数瞬黙り、ゆっくりと口を開いた。

「奥村明日海、今日はようこそ」
「笛吹専務、今日はお時間をいただきありがとうございます」

私は頭を下げ、それからもう一度彼を見つめる。二年前、未来を身ごもった日もこうして向かい合ったなと今更思い出す。あのとき、私は恋を隠して、謝罪の気持ちで彼に向き合ったのだ。

「今は、副社長の役職についている」
「そうでしたか。失礼しました」
「きみの子どもを紹介してもらえるか?」

豊さんは柔らかな表情はしていない。あの頃からあまり愛想のいい人ではなかったけれど、子どもと相対する雰囲気はしていない。