冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

木立の向こうには湖の暗い水面が見えた。冴えた空気だが無風で、湖面は凪いでいる。

「そう、さっきスマホを見たら、望から連絡がきてたんです。可世さん、無事男の子を出産したそうですよ」

結婚式の食事会の最中に陣痛がきたと連絡があったが、式後、明日海が疲れて眠ってしまったので、続報が途切れていたのだ。

「それはよかった。未来、従弟が産まれたぞ」

明日海の腕の中の未来を覗き込むと、すでに未来はうとうとしている。散歩に出てまだ五分と経っていない。俺と明日海は顔を見合わせ苦笑いだ。
それから未来が完全に寝付くまで散歩を続行することにした。

「きみと出会ってから、今日までをぼんやりと思い出していた」
「そうなんですか。なんだか照れますね」

俺の言葉に、明日海が微笑む。

「きみを好きになって、俺はいろんなことを知ったよ。人を恋しく思う気持ち、我が子を愛しく思う気持ち、大事な人たちを失えないと思う気持ち」
「これからもっともっと、新しい気持ちを知れますよ。娘の成長を嬉しく思う気持ち、娘を嫁に出す気持ち……」

俺は明日海の髪に触れる。見上げてきた彼女の額にキスをした。

「でも、きっときみを好きな気持ちは一生色褪せない」

明日海が花開くように笑った。

「ええ、私も」

これから先も変わることなく強くきみを想う。生涯をかけてきみを愛する。
俺たちは星明りが照らす道を並んでいつまでも歩いた。未来の寝息を聞きながら。