冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

この件を穏便に済ませようとしたのは、可世に対する罪悪感からだった。
あとは奥村社長一家を極端に萎縮させないため。

しかし、明日海はわざわざ俺のもとへ謝罪にきた。奥村フーズを見捨てないでほしい。自分は退職するつもりだと言われ、俺は焦った。

彼女を失いたくない。俺のものではないけれど、せめて今まで通り近くにいてほしい。

だが、俺に懇願する権利はない。ほんの少し前まで婚約者がいた男が愛の言葉を告げて、誰が信じるだろう。

“ひと晩”の誘いをかけたのは、勢いだった。他にどうしたらいいかわからなかった。口にしてすぐに否定した。馬鹿なことを言ったと思った。
それなのに明日海は言った。

「私でよければ、ご一緒させてください」

それが父の会社を守る捨て身の言葉だとわかっていた。わかっていたのに、俺はすがってしまったのだ。

思いの丈をぶつけた夜だった。一方的だったけれど、俺は気持ちを遂げられたことが嬉しかった。眠る彼女の髪を撫で、束の間の幸福に浸った。
この夜を始まりにしよう。
今すぐ彼女に迫っては、彼女は身売りのような形で俺との交際に応じるだろう。奥村フーズに損害はないと彼女が理解し、俺が婚約者と別れたことが周知された頃、あらためて彼女に言おう。好きだ、と。

しかし、この選択が間違いだった。
それからふた月後、彼女は俺には何も言わず退職してしまったのだから。