冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

「いいえ。実は、単純作業でくたびれていたので、ちょっと息抜きをしてしまいました」
その笑顔は、出会った頃と変わらない無邪気で明るいもので、俺は眩しくて目がくらむような感覚を覚えた。

可愛い人だ。
その時、初めてきちんとそう思った。奥村明日海は、可愛らしい。顔も仕草も性格も。

「また、困ったときは頼るよ。きみの息抜きになる範囲で」
「はい、喜んで」

俺に言えるのはその程度。奥村明日海を好ましく感じても、俺に何かができるわけでもない。
そう思っていた。



彼女と俺の運命が重なったのはそれからさらに一年と少し先。
彼女の弟と俺の婚約者が駆け落ちをした。

中安可世の失踪を知り、まず俺は後悔した。俺は可世にとって、形だけの婚約者だっただろう。身体の繋がりもなく、気持ちも伝えたことがない。そもそも伝えるべき気持ちも持ち合わせていない。
婚約者だからいずれ結婚する。そんなスタンスの男、見限られて当然だ。

何より、俺の心にはずっと気になる存在がいる。
奥村明日海という存在が消えない。