俺は総務部で部長とこの話をしていて、明日海はちょうど近くで庶務作業をしていたのだ。挨拶状の送付か何かだったと思う。総務部長が尋ねる。
「奥村くん、いいのかい?」
「ええ、このあたりでしたら清月の最中か、吉祥庵の羊羹はいかがでしょう。日持ちもしますしお土産にいいのではないでしょうか」
はきはきと答える彼女に、俺は咄嗟に言った。
「手配を頼めるか? 午後三時までに十箱」
「はい。承知しました、すぐに電話で注文します。準備ができ次第、取りに行ってまいります」
「取りに行くのは俺も一緒に行こう」
彼女の手配してくれた最中を、一時間後にふたりで取りにいった。会社から徒歩で行ける範囲の店だった。
「私ひとりでも大丈夫でしたのに」
店を出て、明日海はそう言って微笑んだ。
「いや、十二個入りを十箱だ。ほら、こうして持ってみればかさばるだろう」
俺が両手の紙袋を持ち上げて見せると、明日海はにっこり笑って、片方を受け取った。
「では、半分ずつ持ちましょう」
ふたりで並んで会社まで歩いた。行きも帰りもほとんど喋らなかった。
春にしては日差しの強い日で、暑いとかそんな会話しかできなかった気がする。
普段からそうよく喋る方ではない俺だが、彼女といるとより無口になるようだった。それが照れの感情だと、俺はなかなか気づかなかった。
土産を会議室に届け、俺は彼女に礼を言った。
「急な仕事を引き受けてくれてありがとう。きみの業務を圧迫したんじゃないか?」
明日海は首をふるふると振り、悪戯っぽく笑った。
「奥村くん、いいのかい?」
「ええ、このあたりでしたら清月の最中か、吉祥庵の羊羹はいかがでしょう。日持ちもしますしお土産にいいのではないでしょうか」
はきはきと答える彼女に、俺は咄嗟に言った。
「手配を頼めるか? 午後三時までに十箱」
「はい。承知しました、すぐに電話で注文します。準備ができ次第、取りに行ってまいります」
「取りに行くのは俺も一緒に行こう」
彼女の手配してくれた最中を、一時間後にふたりで取りにいった。会社から徒歩で行ける範囲の店だった。
「私ひとりでも大丈夫でしたのに」
店を出て、明日海はそう言って微笑んだ。
「いや、十二個入りを十箱だ。ほら、こうして持ってみればかさばるだろう」
俺が両手の紙袋を持ち上げて見せると、明日海はにっこり笑って、片方を受け取った。
「では、半分ずつ持ちましょう」
ふたりで並んで会社まで歩いた。行きも帰りもほとんど喋らなかった。
春にしては日差しの強い日で、暑いとかそんな会話しかできなかった気がする。
普段からそうよく喋る方ではない俺だが、彼女といるとより無口になるようだった。それが照れの感情だと、俺はなかなか気づかなかった。
土産を会議室に届け、俺は彼女に礼を言った。
「急な仕事を引き受けてくれてありがとう。きみの業務を圧迫したんじゃないか?」
明日海は首をふるふると振り、悪戯っぽく笑った。



