冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

奥村明日海はその後も何度か奥村社長のお供でそういった会に参加していた。
しかし、本格的な接点が生まれたのは、彼女が笛吹製粉に入社してからだ。父親の営む奥村フーズではなく、より大きな世界で勉強をしたいと入社してきた彼女は、総務部勤務となった。社内の流れを把握できるから、いずれ奥村フーズに籍を移してもこの経験は活かせるだろう。
上長たちに聞けば、今時の若者にしてはめずらしく、愚直なくらいの頑張り屋だそうだ。

ちょうどその頃、俺には婚約の話が舞い込んでいた。相手は衆議院議員の中安氏の娘。
笛吹製粉にとっていい縁組であるのもそうだが、父は俺を心配し、早く所帯を持たせたかったのだろう。母を亡くして以来、人間味にかけるように見える息子も、妻子ができれば変わると思ったのかもしれない。

奥村明日海のことが脳裏をよぎらなかったわけじゃない。だが、俺は自分の感情を恋だなどとは思いもしなかったし、父の勧める相手を拒否する理由もなかった。



そこから先も俺は奥村明日海を気にしていた。挨拶以外に話す機会もない。それでも、顔を見たくて総務を覗いた。自分の感情の正体がわからなかった。

「私でよろしければ、お手伝いします」

それは、明日海が入社して一年ほど経った頃だ。父が来客に渡すはずだった土産が、手違いで届かないことがあった。
近場の店で手配をしようかと考えているときに、明日海がそう声をかけてきた。