俺の青春時代はほとんど母の病とともにあった。
母を恨んでいるわけじゃない。ただ、母を看るのは日常で、母の病状に不安を覚えるのも常のことだった。

だから母を失い、俺は何をしたらいいのかわからなくなってしまった。
学生らしい遊びはひと通り試してみた。興味はあったが時間がなくて手を付けていなかったことも、チャレンジしてみた。
母の横でいつもしていた勉強と読書は一度やめ、アクティブな趣味を体験してみた。

しかし、それらはどれも楽しかったが、夢中になれるものではなかった。
結局俺は、笛吹製粉の御曹司として会社経営を学ぶ道を選んだ。

この埋まらない虚しさを埋めるものはないのかもれしない。それならせめて、残された父にとって孝行になることをしよう。



奥村明日海と初めて出会ったのは、俺が入社三年目、二十五歳のときだった。
十九歳のあどけない少女はパーティー会場で目立った。社会勉強にと奥村社長が連れてきたのだ。

女性との交際は、大学時代の“経験”として試してみた。しかし俺は最初から本気になる余地のない相手ばかりを選んでいた。