冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

「母親が死んだら、気が抜けたみたいになってしまった。学業もおろそかにしていなかったし、笛吹製粉に入ってからも真剣に取り組んでいたけれど、人間関係に対して淡泊というかね。深くかかわらず、一線引くようなところが目立っていた。そんな豊がきみに興味を持ったのは、私も記憶しているよ」
「豊さんが?」
「ああ、きみが奥村社長のおともでパーティーに参加したときかな。パーティーの途中で、私に聞いてきたんだ。『奥村フーズの社長の娘さんは大学生かな。若くて驚いた』って。私が『気になるタイプか?』って聞いたら、困った顔をして話を止めてしまった」

豊さんのそういうところが想像がつく。
でも、あの瞬間、豊さんは本当に最低限の会話しかしなかったはずだ。そんなふうに私を気にしていてくれたなんて驚いた。

「きみが笛吹製粉に入ってからもね。仕事ができるから庶務を手伝ってもらったなんて、ぼそぼそと報告する豊は初々しかったな。豊の気持ちが本気の恋心だと気づいてやれたら、可世さんとの婚約も進めなかったのに。親として後悔しているんだ」
「私と豊さんはずいぶん遠回りをしてしまいましたが、今は幸せです。だから、この順序でよかったように思います」

私はゆっくりと噛み締めるように言った。

「気持ちを隠して離れ、未来を挟んで未来を誓えるようになった。今が一番です」
「そうか。それなら、私も嬉しいよ」

廊下を進む足音がし、豊さんが居間に現れた。抱っこ紐の中の未来はだらっと脱力して眠っている。

「すぐに寝てしまった。やっぱりはしゃぎ疲れたんだ」

そう言って、未来の口元のよだれをガーゼのハンカチでぬぐう豊さん。そんな彼を見る社長の目がとても優しかった。