「言い訳をする気はないが、昨晩のことは気の迷いだった」

豊さんは私に背を向け、ベッドから降りた。下着やスラックスを手早く身に着ける彼を見て、夢が終わったことを理解する。

「すまなかった。あんな誘いをすべきではなかった」

一晩中、離してくれなかったくせに。そんな意地悪な言葉をかけたくなったけれど、私は淡い笑みの中にそれを隠した。そんな甘い思い出も、私だけのものでいい。

「俺は先に出る。好きな時間に朝食を運ばせる。ゆっくり仕度をして出てくれ。フロントに声をかければ、タクシーがきみを家まで送る」

豊さんは業務連絡のように言い、スーツのジャケットに袖を通すと、ようやくこちらを振り向いた。
彼はなんとも言えない顔をしていた。
おそらくは後悔がその表情のほとんどの意味を占める。あとはなんだろう。私への嫌悪だろうか。

私は座ったままの姿勢だけれど、しっかりと頭を下げた。

「ありがとうございました」
「礼を言われるようなことをしていない」

そう言って彼は部屋を出ていった。
ドアが閉まる音を聞き、私の双眸から涙が滑り落ちた。

「いいえ、お礼を言うことです。幸せでした」

もう聞こえない言葉をひとり呟く。