冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

そこまで言って私はハッとした。結局訴えられるようなことにはならなかったし、笛吹製粉での話し合いでは、中安議員も否を認めたのだ。

「豊さん、もしかして中安議員の方を収めてくださったんですか?」
「たいしたことは言っていない。駆け落ちはふたりの責任だから、一方が一方を恨むのはお角違いだと言っただけだ」

それから豊さんは少し言い淀むように視線を揺らし、ぼそっと言った。

「あとは……、きみに気にかけてもらえるかと期待して、少しいい格好をした。結果は、奥村社長をさらに恐縮させて、きみが謝罪にやってきたんだが」
「私も必死で……」
「きみが笛吹製粉に残れるようにこの件を公にしなかったのも、俺の下心だ。それなのに、謝罪してきたきみは責任を取ってやめると言い出して……、焦って誘ってしまったんだ」

そう言ってうつむいた豊さんの頬は赤かった。私も赤くなっているので、まだ一杯目なのに周囲からは酔っぱらっているふたりに見えただろう。

「あの……、私のことそんなふうに……想っていてくださったんですね」
「きみとそういう関係になれて嬉しかった。きみの眠る顔を見ているだけで幸せで、このままさらってしまおうかと思った。だけど、あのまま交際を申し込んだら強制することになってしまう。少し距離を置いて、お互いに身辺が落ち着いたら、改めてきみに好意を打ち明けようと思っていた」

結果、私が消えてしまったのだ。
あのとき、私にも彼にも多くのしがらみがあった。私は授かった命を守るためには、いなくなるしかないと思っていた。だけど、それが豊さんを傷つけることになったのだ。