冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

「奥村って店員がいるのは間違いないか」
「でも、偽名で働いているかもしれませんよ」
「就労も居住も身分証明書が必要な場合が多い。まっとうじゃないツテでもない限り、偽造の身分証は作れない。捜索届が出されていたとしても、事件性がない限り見つけ出される可能性は低いんだ。それなら、彼はこの土地でも本名を使うだろうな」

私たちの前に、注文したアルコールが届く。

「ほら、乾杯」

豊さんがジョッキを持ち上げるので、私も倣った。そうだ。楽しそうなカップルに見えた方がいいものね。

「空振りだったか。明日の夜まで粘るのは少し厳しいかもな」
「豊さん、月曜は仕事ですものね。未来もさすがに明後日まで預けるのは私が心配です」

そして、両親への言い訳もまた考えなければならない。情報が一歩深まったのは間違いないが、望には会えないまま帰路に就くことになりそうだ。

「また、折りを見てくるか。あとは、笛吹製粉が懇意にしている調査会社の人間に接触を頼むか。でも、できれば明日海は直接会いたいだろう」

私はこくりと頷いた。私なら複雑な事情を望に説明できるだろう。笛吹製粉関連の調査会社の人間が会いにくれば、望はいよいよ再逃亡してしまうかもしれない。
調査委会社という単語で、ふと思い出す。

「あの、中安議員はまだ娘さんを探していますよね」

二年前の事件の話し合いで、中安議員は可世さんと望を私的な調査機関を使って捜索すると言っていたと聞く。豊さんが首を振る。