冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

仙台駅に到着したのは七時過ぎだった。望が働いているのが居酒屋なら、ちょうどいい時間帯だろう。東京と同じく、仙台市内も雨の空模様。

駅から地下鉄に乗り、目的の歓楽街に到着する。雨とはいえ土曜夜の街はやはり人が多い。居酒屋などが立ち並ぶ横丁がいくつかあり、教えてもらった一際賑わう通りに入る。

「このお店です」

作田くんを通じて知った店に、豊さんと並んで入った。

「いらっしゃいませー」

明るい接客の声が飛ぶ。店内は混みあい、人気店なのがわかった。

「二名様ですね。こちらへどうぞ」

私と豊さんは並んでいれば、ただのカップル客に見えるだろう。ふたりで席に案内されるまでに店内を見回した。望らしき店員はいない。

「この店なんだよな」
「ええ、接客のホールスタッフをしていたみたいです」

席に着くと、豊さんは私に注文の確認を取ってすぐに店員を呼んだ。

「生ビールとレモンチューハイをひとつずつ。あと、今日って奥村くんいるかな?」

普段の豊さんよりワントーン高い声。そして表情は親しみやすそうな笑顔。若い女性店員は、一瞬「え」という顔をしたけれど、すぐに豊さんを常連客と思ったようだ。

「奥村は今日お休みなんですよー。すみませーん」
「そっか。残念」

短く言って、豊さんは女性店員に笑顔を見せた。私もここまでの笑顔を見たことがないので、ちょっと驚いたくらい。作り笑いとはいえ、店員さんに見せるのはずるいと思ってしまった。