冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

「昼過ぎには戻る。待っていてくれ」

洗面所に向かう豊さんを見守り、私は胸を押さえた。私たち、両想いなのだ。誰憚ることなく、三人で家族になっていいのだ。

だけどその前に、叶うなら望に会っておきたい。望に対する感情は、自分でも説明がつかない。両親を悲しませたことは責めたいけれど、彼の悩みをわかってあげられなかったことは申し訳なく思う。どちらにしろ、たったひとりの弟だ。彼らが罪悪感なく、生きていけるためにも、私たちは会うべきだと思う。



その日の夕刻、私と豊さんは小さなボストンひとつで東北新幹線に乗った。
未来は、実家だ。私と豊さんがそろって出かけるので、母の腕の中で身をよじって大泣きしていたけれど、その後大好きなりんごのすりおろしをもらって機嫌を直したそうだ。我が娘ながら、現金で笑ってしまう。

「豊さん、驚きました。うちの実家であんなこと言うんですもの」

座席に座り、ちらりと彼を見やる。豊さんは真顔で答える。

「明日海とふたりで旅行をしたいと言った件か?」
「……それです」

豊さんは未来を預けるときに、一緒に私の実家に顔を出した。両親に急な出張で未来を預けることを詫び、それから言ったのだ。『明日海とふたりきりで旅行をしたことがないので、いい機会かと連れ出してしまいました』と。

「地方で会食……の信ぴょう性を高めるためとは思いますけれど、両親は驚いていました」

父も母も、私と豊さんが互いに気持ちを伝え合ってとはまだ知らない。未来の父親だって、知らない状態だ。
彼らからすれば、政略結婚で嫁入りさせた娘が、思いのほか愛されているようで驚いたに違いない。