「ありがとうございます。でも、もう少し待ってほしいんです」

豊さんはマグカップにコーヒーを注ぎ、キッチンを出てきた。ダイニングテーブルにことんとカップをふたつ置く。

「何か気になることがあるか」
「弟の望のことです。昨日、私が作田良樹くん夫妻の家に行ってきた理由でもあるんですが……」

私は、豊さんに事の次第を話した。
消えた望の情報があったこと、会いに行ってみようとしていること。
豊さんは自分には責める資格がないと言っていたけれど、それでも望と可世さんのしたことは、豊さんへの裏切りだ。

「豊さんに気持ちを伝えられたのは嬉しいんです。でも望を見つけて、謝罪をさせるのも、私たち家族の責任に思えるんです」
「俺はふたりを責めるつもりはない。可世が俺を見限って、きみの弟に恋をしても仕方ない状況を作ったのは俺だ。でも、確かにふたりの逃避行で家族は不安と悲しみを感じただろう。俺への謝罪はいい。俺も望くんを見つけておけるなら、そのほうがいいと思う」

豊さんは部屋からスマホとスケジュール帖を持ってくる。

「目撃証言が今週なら、やはり行くのは早い方がいい。明日海、俺も一緒に行く。今夜、現地につけるように出発しよう」

私は驚いて豊さんを見つめる。あまりに急展開だ。

「でも、豊さんお休みは今日だけですよね」

仙台の居酒屋を目指して、今日中に帰宅するのは厳しいだろう。