「きみはあの頃、作田良樹と交際していたんだったな。知らなかったとはいえ、無体を働いた。きみと彼を裂いたのは俺だ。だけど未来を一目見て、俺の子だと確信した。きみにとっては不本意かもしれない。だけど、これからは俺にきみと未来を守らせてほしい」
「豊さん……」
「好きだ。もう、昔の男には会いにいかないでくれ」

奥村フーズのため。望をおびき出すための人質。
様々な理由の裏にあったのは、彼の純然たる愛情だった。豊さんが私を好きだったなんて信じられない。

だけど、こうして精一杯想いを告げてくれる彼に、私の両目には涙があふれていた。

「豊さん、私、作田くんとは交際していないんです」

真実を言おう。彼の勇気の分を私も返さなければならない。

「作田くんとは望の捜索でずっと連絡を取りあっていました。豊さんに結婚と言われたときに頼れる男性が彼しかいなくて、彼の奥さんの了承も取って、父親役をしてもらったんです。だから、未来の父親は間違いなくあなたです。豊さんの子どもだと思って産み、育ててきました」

うつむき、涙をぬぐいながら言葉にする。私の八年にも及ぶ想いを。

「ずっとあなたに憧れてきました。婚約者のいるあなたへの恋はいけないと抑え込んでいた。弟がしたことで、嫌悪される立場になったのがつらかった。それなら、せめて最後に思い出がほしいと思ってしまいました。謝罪を利用して、あなたに抱かれたのは私の意思です」
「明日海」

豊さんが腕を伸ばす。迷いはまだあった。だけど、もう気持ちを抑えられない。
駆け寄って彼の身体に腕を回すと、力強く抱きしめられる。