豊さんがふうと長い息をついた。それから私を再び見つめる。
「二年前、きみと関係を持った後、俺はきみに話したいことがあった。しかし、当時の俺は婚約者が失踪したばかり。もう少し周囲が落ち着いてからと思っていたら、きみは消えてしまった。奥村社長に尋ねても歯切れが悪い。だから、笛吹製粉関連の調査会社を使って調べたんだ。……きみは、知らない街で娘を産んでいた」
豊さんは言葉を切った。スマホを取り出し、画面を見せてくれる。
それは私がまだ未満児の未来を抱いて歩いている光景。
「俺の子だと勝手に思った。違ってもいい。パートナーがいないなら俺が面倒を見られると思った。だから、奥村夫妻に理由をつけてきみとの結婚を申し込んだ」
「そんな、だって私は望の……」
望の姉だ。豊さんから婚約者を奪った男の親族なのだ。
豊さんが眉間にしわをよせ、首を左右に振る。
「本当のところ、俺は中安可世も奥村望も責められる立場にない。長い間、自分の気持ちを隠して可世と婚約関係にあったのだから。俺がずっと、二十代の頃から気になっていたのはきみだ。奥村明日海」
私は顔あげた。豊さんは苦しそうに眉を寄せ、絞り出すように告げた。
「パーティーで見かけたときから、気になっていた。笛吹製粉に入社してくれてからは、総務部を訪れるたび、きみを見ていた。きみの仕事ぶりや人柄を聞いて、より興味が湧いた。きみと話したくて、仕事を頼んだりした」
「うそ……」
「奥村望の件で謝罪してきたきみに、俺は付け込んだんだ。この機会を逃せば、きみは俺から離れていくと思って必死だった」
自嘲気味に言い、「最低だろう」と豊さんは付け足した。
「二年前、きみと関係を持った後、俺はきみに話したいことがあった。しかし、当時の俺は婚約者が失踪したばかり。もう少し周囲が落ち着いてからと思っていたら、きみは消えてしまった。奥村社長に尋ねても歯切れが悪い。だから、笛吹製粉関連の調査会社を使って調べたんだ。……きみは、知らない街で娘を産んでいた」
豊さんは言葉を切った。スマホを取り出し、画面を見せてくれる。
それは私がまだ未満児の未来を抱いて歩いている光景。
「俺の子だと勝手に思った。違ってもいい。パートナーがいないなら俺が面倒を見られると思った。だから、奥村夫妻に理由をつけてきみとの結婚を申し込んだ」
「そんな、だって私は望の……」
望の姉だ。豊さんから婚約者を奪った男の親族なのだ。
豊さんが眉間にしわをよせ、首を左右に振る。
「本当のところ、俺は中安可世も奥村望も責められる立場にない。長い間、自分の気持ちを隠して可世と婚約関係にあったのだから。俺がずっと、二十代の頃から気になっていたのはきみだ。奥村明日海」
私は顔あげた。豊さんは苦しそうに眉を寄せ、絞り出すように告げた。
「パーティーで見かけたときから、気になっていた。笛吹製粉に入社してくれてからは、総務部を訪れるたび、きみを見ていた。きみの仕事ぶりや人柄を聞いて、より興味が湧いた。きみと話したくて、仕事を頼んだりした」
「うそ……」
「奥村望の件で謝罪してきたきみに、俺は付け込んだんだ。この機会を逃せば、きみは俺から離れていくと思って必死だった」
自嘲気味に言い、「最低だろう」と豊さんは付け足した。



