冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす

「あの日も……今も……俺は……」

そう言って豊さんは力なくうなだれ、そして私の上からどいた。額を抑え、ソファに座りこむ。乱された襟元を正しながら身体を起こし、私は震える声で尋ねた。

「豊さんの気持ちがわかりません。あなたは私が嫌いじゃないですか。あなたの婚約者を奪った男の姉です。私は人質なんでしょう。どうして優しくするんです? どうしてキスなんか……」
「嫌いだったことなんか一度もない」

豊さんの声は押し殺した苦しげなものだった。うつむいた顔の表情は見えない。

「奥村明日海、俺はきみを……ずっと」

そこまでつぶやき、いきなり立ち上がった。私に背を向け、ベランダに面した窓の方向へ行ってしまう。まるで自分を落ち着かせようとしているみたいだった。

やがて彼はゆっくりと私を振り向いた。凪いだダークブラウンの瞳には決意が見えるようだった。

「明日海、答えてほしい。未来は俺の子だな?」

私は唇を噛み締めた。もう隠し続けられない。彼はきっとずいぶん前から確信を持っているのだろう。
彼に向かい合う格好で立ち、静かに頷いた。

「はい。あの日、あなたと過ごしたひと晩で授かった子です。どうしても産みたくて、あなたの前からいなくなりました」