私が髪に触れると、そこには簪が付けられていました。蒼さんが手鏡を持ってきてくださり、とんぼ玉が使われた美しい簪だとわかりました。

「最後にこれを」

蒼さんが引き出しから取り出したのは口紅でした。派手な赤いものではなく、可愛らしいピンクの口紅です。それを目にした瞬間、私は彼の伝えたいことがわかり、胸が温かくなっていくのがわかりました。こんなにも幸せを感じていいものなのでしょうか……。

「目を閉じてください」

「はい」

私が目を閉じると、まるでガラス細工に触れるかのように丁寧に口紅が塗られていきます。蒼さんが口紅を塗り終えて私が目を開けると、彼は恥ずかしそうに、しかし真剣な顔で私の両手を包みました。

「私の残りの人生をあなたに捧げます。なので、あなたの残りの人生を私にくれませんか?」

「……はい」

嬉し過ぎて、視界がぼやけてしまいます。幸せな時にも人は泣いてしまうのですね。彼の腕に包まれながら、私は「好きです」と呟きました。