『おい、ひよ。どこ行くんだよ』


駆け出そうとしたわたしの腕を、昂輝がガシッと掴んだ。


『どこって。言ったでしょ? キーホルダーを探すって……』


『やめとけよ。こんな暑い中で長い間あてもなく探すのは、良くない』


今は、夏休み直前の7月半ば。


梅雨明けと同時に本格的な夏が到来し、連日猛暑が続いている。


熱中症で何人病院に運ばれたなどと、テレビやネットのニュースでも毎日のように報じられている。


今だって外にいると、ただ立っているだけで汗が吹き出てくる。


『あんな猫のキーホルダー。汚れて傷もついてたし、良いじゃん。また新しいの買ったら?』


『ダメ! あれは、昂輝がわたしに初めてくれた物なんだから。わたしの……大事な宝物なの』


『“大事な宝物”……か。わかった。俺がなんとかするから』


昂輝が、わたしの頭をぽんっと撫でる。


『ぐすっ。なんとかって……?』

『ひよは、何も気にしなくて良い。だから、もう泣くな』


そう言って、昂輝がわたしの目元の涙を指で優しく拭ってくれた。