さすがに今ここで詳細は言えないから、昼休みにと約束をしてこの話を終わりにするつもりだったけど、仁菜は《《ある物》》に気が付いて手に取った。

「これもまだ使ってるの? もう捨てなって」
「あー……」

 彼女が手にしたのは、私がさっき鞄から取り出したピンクの花柄の名刺入れ。実はこれ、2年前に凪から貰ったクリスマスプレゼント。使いやすさもあって愛用していたけれど、さすがにまずいらしい。

「忘れられないのはわかるけどさぁ。さすがにもう使うのはダメだって。思い出に囚われて引きずったままになるよ?」
「うん……」

 仁菜から返してもらいながら曖昧な返答だけになってしまう。
 
 正直、彼から貰ったとは言え名刺入れ自体が悪いわけじゃないし、使える物は大事にしたかっただけなのだけど……やっぱ貰った相手が悪かったか。
 仁菜の言い分もわかるから素直に従う事に。

「新しいのを考えてみます……」

 ちょうど今月は誕生日もあるし、気持ち新たに新調するつもりで次の休みにでも買いに行こうかなと、名刺入れを制服のポケットにしまった。


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 平日の仕事は営業・接客・事務処理がほとんどで、週末の式のための準備を進めないといけない。今だから慣れてきたけれど、繁忙期の時期によっては忙しさで心身ボロボロになる。6月は比較的忙しくないからまだ良いけれど。