桐葉さんは氷だけになったシャンパングラスをテーブルに置くと、口を噤んだまま両肘をついて顔の前で指を組んだ。口にしないと言う事は、もしかしたらまだ解決していないのかもしれない。けれどこれ以上本人には追究出来なかった。
桐葉さんのグラスに同じお酒が注がれていく。もうこれで何杯目なんだろうか。彼はグラスを静かに回しながら、過去から目を逸らすように『まぁとにかくだ』と話題を変える。
「さっきも言ったように、今回お前達に何があったか知らないし、この件で俺がとやかく口を出すつもりもない。……だが」
中途半端に言葉を残して《《間》》があいた。その後に何を言うつもりなのか待つのが焦れったくなった私は、『なんです?』と続きを急かしてしまう。
すると彼はグラスから手を放し、テーブルの上で腕組をしながら横目でチラリと私に目を向ける。それは一瞬の事ですぐに逸らしてしまったけど、彼は低く静かに言う。
「お前は……俺と同じ目には遭ってほしくない」
その横顔はなんとなく、物哀しげに切なく見える。
「同じ目にって……?」
「俺みたいに会社に追い出されて他へ飛ばされる事だ。お前もそんな事は望んでいないだろ?」
『違うか?』と聞かれてしまうと、確かに彼の言う通りだった。マネージャーとして慣れてきたし、今の職場が好きだから離れるのは不本意な事。



