「本当、悔しいというか情けないと言うか。後悔しか残らなかったよ。おかげで覚悟も決心も出来たけど……」
「そうだったんですね。複雑な心境のようですが、前に進むための心が決まったんですね」

 終始マスターは否定するわけでもなく、優しい表情で相槌を打ちながら話を聞いてくれて、そのおかげとアルコールが入っているせいもあって私も気持ちはスッキリしてきた。

 その後も美味しいカクテルやサワーなんかを飲んで、1時間ほどが経った頃―――


***


「なんだ、ヤケ酒か?」

 聞き覚えるのある嫌味ったらしい声が斜め後ろから聞こえてきて、顔も見ていないのにすぐに誰だかピンときた。

「違いますよ。そんなんじゃありません」

 溜め息交じりに渋々答えながら顔だけ振り向くと、ビシッとネクタイをし皺1つないスーツを着た桐葉さんが、細目で私を見下ろしている。

「へぇ~。違うのか」

 『ヤケにしか見えない』と一言も二言も多い嫌味を言いながら、なぜか私の隣の空いてる席に腰を下ろす。

「え、なんでここに座るんですか。席なんて他にも空いてるじゃないですか」
「どこに座ろうが俺の勝手だろ」

 完全に居座るつもりらしく、ネクタイを緩めながらマスターに『いつもの』と注文までしている。
 嫌な事が続いてメンタルが落ちているというのに、よりによってこの人の顔を見るのは更に気分が悪くなり、無意識に顔を顰めてしまう。