平日の夜という事もあって店内はお客さんは多くなく、カウンターの真ん中の席も空いてたからいつものように腰掛ける。

「今日は何にしますか?」

 マスターは専用のクロスでグラスを拭いていた手を止め、シェーカーに手を伸ばす。

「そうだな……元気が出るカクテルにしようかな。種類はマスターに任せるよ」
「かしこまりました」

 またニコリと笑顔を向け『それなら……』と少し考えた後、背後の棚からテキーラと私の知らないお酒を取り出し、他にライムのジュースや砂糖、塩まで用意し相変わらずの手つきで器用にシェイクしていく。

「フローズンマルガリータというカクテルです。口当たりは甘く飲みやすいかと思います」

 そう言って丁寧にシャンパングラスに注ぎ、私に差し出してくれた。”フローズン”というだけあって、見た目は少しシャーベットのよう。それにグラスのまわりには塩がついていて、これはマスター曰く『スノースタイル』というらしい。最後にストローとスプーンが用意されて、飲み方も少し変わったお酒だ。

「不思議……甘いけど塩がちょうど合ってて美味しい」
「喜んで貰えたなら良かったです」

 元気が出るようなカクテル言葉があるらしいそのカクテルに舌鼓を打ちながら、マスターに今日の出来事を簡単に愚痴ってしまった。