すれ違い遠ざかっていく凪の後ろ姿を涙を堪えて見つめていたけれど、彼は1度も振り返る事はなく、その姿は建物の陰に隠れていった。

 凪の言った言葉すべてが頭の中をループして、そのたびに『もっと彼の事を考えていれば』『悩んでいた事に気づいていたら』『話を聞いてあげていたら』そして……もっと愛している事を伝えれていればと、何度も何度も口に出してはまた後悔に嘆く自分がいる。
 それに茉莉愛ちゃんが言ってた事が正しかった。彼女は凪の気持ちをよく理解してあげて、だから凪も好きになった。私と違って思いやりがあったんだと思うと、さらに落ち込んだ。

 今日はダブルパンチでやられてしまい、その後どうやって家に向かったのか無意識に足を進めていてよくわからない。たぶん相当ショック状態だったんだと思う。
 いつも通る同じ道を呆然としながら歩いていると、よく行くあのBARの前に差し掛かってふと立ち止まる。

「少しだけ飲んでいこうかな……」

 まっすぐ帰るつもりだったけど、1杯だけ飲んで気分転換しようと店に入った。

***

「こんばんは、棗さん」
「どうも、マスター」

 ニコやかに爽やかな笑顔を向けてくれるマスターの優しさに、私も自然と笑顔が溢れる。