皮肉にも付き合ってた頃には1度もなかった”初めての喧嘩”。もっとちゃんと話を聞いていてあげればこんな事にはなってなかったかもしれないと、後悔ばかりが押し寄せる。

 あの頃はただ楽しくて幸せで……そんな夢物語みたいな恋愛をしてきたけど、それが間違いだったって今さら身をもって思い知るなんて。付き合っているのに相談も、話し合う事も出来ないなら、そんな関係……付き合っているなんて言えない。

 だから凪は、別れたかったんだ――――


「それに、仕事の立場としても瑠歌とは違う。瑠歌がどんどん上に上がっていくのも複雑なんだ」

 仕事の立場まで弱味として出されてしまっては余計に口を挟めなくなり、またキュッと唇を噛みしめる。

「茉莉愛は、自分が大変な時でもいつも親身になって俺の話を聞いてくれた。《《俺達》》は同じだから気持ちも理解してくれる」

 ”俺達は同じ”
 その言葉が意味しているものは、要は『私はマネージャーだから立場も違い彼氏の気持ちも理解してない』ってこと。

 さまざまに絡み合った鎖は想像以上に強く硬く、もう何を言っても解ける事はないんだと別れる覚悟がようやく持てた気がした。

「いろいろ考えて悩んで、それで茉莉愛ちゃんを選んだんだね」
「あぁ……」
「そっか……そういう事、か……」
「ごめん。……今までありがとう」

 最後の最後に凪はしっかりと私の目を見て、謝罪とそしてお礼の言葉を口にして私の横を通りすぎていく。
 彼のその瞳からは、私と違い後悔の文字は少しも見えなかった―――