なんて事。よりによってこの人にまで知られるなんて、運が悪いにも程がある。それも《《散々》》って、全部聞いてたって事じゃん。
場所が場所なだけに仕方ないとは思うけれど、気まずさと恥ずかしさから桐葉さんから目を逸らしてしまう。
だけど弱味だけは見せたくなかった。
「こんな事では泣きませんよ」
強がったのは、この人に何かを言い返した所で返ってくる言葉がわかっていたから。
「だから言っただろ。仕事に私情を挟むなと。自分の首を絞めるだけだ」
見事なくらい想像通りの回答に、『ほらね』と鼻で笑いかけた。まぁでも、こういうとき他人に興味を持たない彼には助かる。
「以後、気を付けます」
『お騒がせしてすみません』と謝罪の言葉は加えると、ようやく桐葉さんは封鎖していたドアの前から離れてくれて、私は最後まで目を合わせず軽く会釈しながら彼の横を通りすぎた……―――
***
なんとか余計な事を考えずに打ち合わせを終わらせて、他の職員より少し遅めのお昼休みに入れたのが13時。
誰もいない事務所に戻り珈琲メーカーにカップをセット。その間に自分の席で鞄からお弁当を取り出して一息ついた。
「1人で良かったな……」
思わず声に出して安堵の本音が出てしまったのは、さっきの出来事を見られて特に後輩達と合わせる顔がないから。



