私は目の前で何を見せられているんだろうか……
もう解放してもらいたいんですが。なんなら帰ってもいいですか。
「瑠歌!」
凪の怒気の籠った声に、反射的にビクッと肩が跳ねた。茉莉愛ちゃうを見つめていた視線を今度は私に向けられたが、その顔はさっきまでの心配そうなのとは一変、明らかに怒っている。
「このコに何したんだよ」
低く冷たさが混じる声は、付き合っていた頃に喧嘩した時ですら聞いた事のない、私の知らない部分。
そこまで彼女が大事だって言うの?
「私は何も……。話を少ししていただけだから……」
「嘘言うなよ! 瑠歌の怒鳴り声が廊下まで聞こえたんだ。一方的に茉莉愛を責めていたんじゃないのかよ!」
「は? なによそれ。こっちはっ……なんでもない」
凪の責め立てる言い方に思わずカチンと来て言い返しそうになったけど、なんとかギリギリの所で踏み留まって言葉を呑み込んだ。今のこの状況で言い返しても、入口で聞いてる人達に誤解を招くだけ。私には不利にしかならないのを悟ったから。
「凪くん……私は大丈夫だから……。だから怒らないで? ね?」
「茉莉愛……」
上目遣いで涙を溜める彼女を庇うように凪がギュッと手を握る姿を見せつけられて、完全に甘い世界へと入り込んだ2人に正直もうどうでも良くなってしまった。



