凪が別れ話を持ち掛けた時、彼の口から『好きな人が出来た』と聞いて、別れたい理由がそれだけだと思い込んでいた。悩んでいた事は最後まで言わなかったし聞く事もしなかったから、本当に《《それだけ》》なんだと勝手に解釈していた。でも実際は違った?
「もしかして……棗さんは何も気付きませんでしたか?彼が悩んでいた事に」
目を逸らしていた私に、茉莉愛ちゃんはまた追い打ちを掛けてくる。触れて欲しくない事を躊躇なく言い放つその瞳が、どこか勝ち誇っているようにすら見える。
「棗さんはマネージャーとして凄いです。仕事はバリバリ出来ますし、大人の魅力もあって美人で憧れています。ですが……もっと恋人の事を考えるべきだと思います。じゃないと相手が可哀想」
ここまで言われても、返す言葉が見つからず唇をキュッと固く結び、震える手を握りしめながらジッと耐えるしかなかった。
耳に、胸に痛いけど自業自得だって事くらいわかってる。自分から踏み込んでしまったんだから仕方ないんだと。
「茉莉愛ちゃんには……なんでも話したんだね、アイツ」
ようやく声に出せた一言は、半分諦めに近いもの。怒りとか憎しみとかの前に、衝撃のせいかショックの打撃の方が強かった。
「はい。凪くんがずっと言っていました。棗さんは、何よりも仕事の方が大事なんだって」
『だからそこに、俺は必要ないって』



