桜林茉莉愛は、私の元カレである凪の現彼女。今カノというやつ。
 凪の口から直接その名前も付き合ってる事実も聞かなかったものの、別れ話の際に勘付いた。
 社内で仲良さげに話す姿は何度か目撃してるし、たぶん間違いない。

 事務所にいるのは私と茉莉愛ちゃんだけ。よりによってそんな相手と2人きりなんて最悪。何を話せって? かと言ってこのタイミングで私が部屋を出るのは明らかにおかしいし。

「い、今からだっけ? 打ち合わせ」

 話題に困った挙句、必死に考えた結果は仕事の話。困った時はこれが無難。仕事をしているフリして焦りを誤魔化しながら、場を保たせる。

「はい。これからドレスの衣装合わせに同行するんですが、まだ時間があったので」

 ニコッと可愛らしい笑顔を向け、入り口から1番離れた窓際、私の斜め前の自分のデスクに着いて引き出しからプランノートを開き始める。これは暫く2人きりの延長?

「珈琲淹れようか?」
「私、苦いの苦手で……すみません」
「あ、そう……なんだ」

 気遣ったりして立ち上がってみるも、空しく終わり成す術もなくまた席につく。未だ気持ち落ち着かずソワソワする私とは裏腹に、彼女は涼しい顔で仕事に集中しているように見える。
 そう。まるで彼女自身まったく関係ないかのように、気にしている素振りが微塵も感じられない。