”オルコス・ド・エフティヒア”の演出の1つに、プロジェクションマッピングがある。出来る範囲も幾つからあり、建物全体をスクリーンとして投影するのと、披露宴会場でも使用が可能となっている。
 会場内では壁のみもあれば壁一面+天井・壁一面+床、そして今回桐葉さんがやってくれたのは、壁も天井も床も……全てをフル活動したもの。
 
 もちろんこの演出だって無料サービスは行っていない。前以て当日プランを考えていく上で、新郎新婦と料金も打ち合わせしていかないといけない1つなのに、サプライズって理由で全てをサービスにていたらここは赤字で潰れてしまう。
 彼はそれを全てナシにしてしまったんだ。

「これぐらい臨機応変に対応していけなくてどうするんだ」
「そんな悠長なこと言わないでください。今回はたまたま上手くいったからいいものを、毎回こんな事をされては困ります」
「ガミガミうるせーな」
「ガっ!?」
「今ここにいる全員が笑顔で祝福出来た。あの演出は成功した。それで良い。それが俺達の仕事だろ」

 淡々と、なのにごもっともらしい事だけ吐いて会場から出て行ってしまう。
 最後まで勝手すぎる新しい支配人に私は呆れて声も出ないけれど、式は順調に進んでいき、新婦から母への手紙を子供達も含めて全員が見届けた事はたぶん……悔しいけど彼のおかげだと思う。

 桐葉李月。彼は女が苦手らしい。
 けれど仕事に対しては無謀にも前向きな男だった。
 
 後先考えずに行動するのは、仕事だけで充分―――